《第977話》『排除すべき異物』
なんだあれは。なんだあれは。なんだあれは。
僕と言う世界の中に、突如現れた異物。それは今、人の姿をとっているがその存在は全く別のもの。
この世界の中で具現化するために、その法則に基本的に則るが、その一方で無視して行きもする。いわば、一時的に世界に同化する“何か”。それが、「ペスタ・エプティ」と名乗る彼女の正体だろう。
それはまるで、細胞を乗っ取るウイルスのよう。何がしたいのかすらも分からない、あるいは病原菌よりもタチの悪い存在。
前の週にて、彼女は呉葉の前に現れた。その目的は、僕――いや、樹那佐 夜貴の方だろうか、その殺害。それは本来、別の平和維持継続室職員が行う予定にあったが、彼女が横取りした。
本来、樹那佐 夜貴はその時点で命を落とす予定だった。無論その時は世界の運命の楔はまだ撃ち込んでいなかったが、突然運命の変化、そして異物の登場に思うことがあったのは間違いない。
それからだろうか。僕が、樹那佐 夜貴として同化することにしたのは。
今の僕はこの世界そのものではあるが、一方で紛れもなく樹那佐 夜貴である。事故とは言え変化した運命に一時的興味を持ち、僕は僕そのものになった。
――けれど、樹那佐 夜貴としている僕の外側。世界そのものである僕は、彼女との生活を続けているうちに自己の在り方を虚しく思い始めていた。
この穏やかで優しい、あたたかい時間も、所詮はこの週だけのもの。次の週でも同じになるとは限らない。だから僕は、全てを終わりにしようと考えた。
だが、また目の前に現れた異物。またアレは、僕の決定をぐちゃぐちゃにしてしまうのだろうか。
一時心がわりがあっても、結局虚しさに行きつくというのに。ならば僕はそれを何度も味わうくらいならば、潔く全てを終わりにしたいのだ。
――また狂わされる前に。アレを何とかしなくては。




