《第974話》『この世界と妾』
「――なん、ですって?」
静波多 藍妃は、信じられないモノを見るような目で、妾を見る。
「アンタしか救えないのよ? 何言ってんのよ!」
「例えそうだとしても、妾には世界が滅びたいと望むのを咎めるつもりは起きん」
それは、世界の苦しみの一端を、己が理解してしまったが故。――いや、もはや近づきすぎて自身との境界があいまいになっているせいもあるのかもしれない。
「――ふぅん、何故だい?」
「逆に問おう。何故それを止めねばならん。自身の身が危険だからか? 確かに、そう考えれば対応しようと考えるのが道理だ」
「………」
「だが、お前たちはいつ終わるともしれん無限の時の中を、孤独のまま居続ける事ができるのか?」
「………一度は、前向きになったと思ったんだけどね」
「誤解してもらっては困る。妾とて、滅びを望んでいるわけではない。夜貴を殺したくもない。ただ、世界の意思に何かを言ってやれる程身勝手ではない。ただそれだけだ」
謂わば、中立の立場、と言うものに近い。全ての時間軸と統合された妾には、世界にもの申す気が起きないだけなのだ。
「――アンタ、何か勘違いしてない?」
すると、夜貴の幼馴染みが怒気を孕んだ声を向けてきた。




