《第973話》『稼がれた時間の中で』
「――なるほどな。害はなさそうだから。とりあえず使ってみた、か。とても理性的とは言えん選択だが、そのおかげで今お前たちと会話できている、とも言えるな」
この週に置いては、妾の周囲を常に世界の視線が飛び回っていた。それは今までこの世界には無かった物質で形成され、そしてそれが故にあらゆる生命がそれを認知することが出来ず、触れることすら叶わない。
だから、妾の視界には映らず、しかし妾の感覚だけが感じられるように調整されたそれに、この週の妾は翻弄されていた。その視界は、監視であると同時に“事故的に”夜貴を殺させる手段でもあり、実際幾度となくやらかしてしまいかけている。
だが、それをこの世界の理の外に存在するペスタが破壊した。おかげで今、妾は謎の気配を感じていない。――もし今のこいつらが妾の前に現れていたら、きっとまた世界は再生され直されていただろう。今度こそ、念入りに。
「今、世界はきっとアレにどう対処するかで忙しいのだろう? もっとゴチャゴチャ考えていたが、おかげで手間が省けた。サアキミ、この世界と話をつけてくれたまえ」
「…………」
言うまでもなく、というその言葉。聞く前から、こやつらがそれを妾に要求してくることは分かっていた。
「いわば、キミの手にこの世界全ての命の運命がかかっていると言ってもいい。腹立たしい事だが、キミ以外に出来ることじゃなくてね」
「――お願い」
「こんな風に押し付けてるみたいになるのも、嫌なんだけどさ。アンタしかできないのよ」
――だが、
「――待て、お前たち」
「うん?」
「妾は、まだそれを承諾したつもりはないぞ」




