《第九十六話》『ご近所さんに噂されているのをこの鬼神は知りません』
「うーん、そうね。紙パック式ならこっちの方がいいかも。うるさくないし、長く使えて頑丈よ」
「ふむふむ、なるほど――ならば、こっちはどうなんだ? こっちの方が安いぞ?」
「それは駄目ね。そこそこ吸ってくれるけど、いきなり爆発したって話を聞くわ」
「掃除機だぞ、何故爆発するんだ!?」
「あたしに聞かれたってしらないわよ。まあ、これは買わないことを推奨するわ。家を散らかしたりしたくなければ」
分かりやすく解説してくれる静波多 藍妃に、妾は耳を傾ける。しかし、何故そんな妙に詳しいんだ。家電女子がこれから流行るのか?
とりあえず、術に関してはよく効いているようで、向こうはこちらを初対面と思っているようだ。ひとまず、本部への連絡はされていないだろう。
「――よし、これにしよう。貴様のおかげで、どれを買えばよいのかがわかった。感謝する」
「そう、それはよかったわ。――それで、なんだけど」
「なんだ?」
「――アンタ、一体何者なの?」
「何――?」
目を細めてこちらを注視してくる静波多 藍妃に、妾は思わず後ろに一歩下がった。
「どう見ても、普通の人間じゃないじゃない。――と言うか、まず人間なのかすら怪しいわ」
「どこが普通の人間じゃないと言うんだ!?」
「回り見なさいよ、どこにあんたみたいな真っ白な奴がいるって言うのよ?」
「ぐ、ぐぬ――っ! 確かにそれはその通り、だ、が……!」
ぶっちゃけ、誰にもあまりそう言うことを言われてこなかったために、正直気にしたことが無かった。ここへきて、それが突っ込まれるとは。
「な、ならば、どうするというんだ――!」
「別に、悪くない奴までどうこうする気はないわ。とりあえず、誰かに害をなそうとしている奴が、こんなところで掃除機買おうとしているとは思えないし」
静波多 藍妃は、こちらを値踏みするような視線で見ながら、次にこう宣言した。
「アンタのこと、しばらく監視させてもらうわ」




