《第970話》『長く生きると言う事』
なんだ、これは。
妾の中に流れ込んでくる――? いや、違う。妾の内側から、浮き上がってくる?
その光景は、今はまだ知らない筈の事。この先の時間で起こる筈の事。未来の事。まるで今立っているこの場所が過去であるかのように、それらの時間に存在する景色が、脳裏を流れゆく。
代わりに、今現在のモノである筈の記憶達が、まるで偽物であるかのように浮き上がってきたように思える。
まるで、何者かによって記憶が上書きされていたかのような。――いや、それはある意味正しく、ある意味間違っているか。
世界とは、ある意味で幾重にもまかれたリボンのようなモノ。今のこの時間は、ただ新しく巻かれた一枚の上での事にすぎず、そしてそれは前の世界でも同じこと。
だから、此度が。此度だけが特別なわけではない。幾度となく繰り返された世界の中で、今が一番新しいというだけ。
この大宇宙がビッグバンによって始まり。それによって膨張。しかしある時を境に突然収縮を行う。そしてまたビッグバンがおこり再び膨張を起こしては収縮を繰り返す。
終わりも始まりもない。膨張と収縮が交互に起こるだけの、世界にとってはそれだけの中身。それが、世界における“自己”であり、無限は我々その世界の中を生ける者たちには及びもつかない時間の果てで飽きる。
――だが、妾もその気持ち。少しは分からなくはなかった。
世界には及ばないが――妾とて、一度の人生で1000年以上生きているのだから。




