《第969話》『概念外』
「何やら大変になってきましたね、うふふ」
バラバラに解体された、名も知らぬ鬼の立っていた場所。肉片降り注ぐそこに、黒いゴシックドレスでプラチナブロンドの長髪の少女が立っている。
微笑む彼女の手には、その身の丈の1・5倍はあろうかという程の巨大な羅紗切鋏。その取っ手の内側を、まるで剣を握るかのように持っている。
ペスタ・エプティが、眼にもとまらぬ速さで鬼を斬り刻んだのだ。
「まあ、これもある程度想定の範囲内――ではある、が。かと言って、歓迎できる事態ではない。流石、ボク達の住まう世界だよ」
「ちょっと、このままじゃわたし達マズいんじゃないの?」
「元より危険は承知の上さ。だが、諦めるにはまだ早い。見たまえ」
イヴはそう言って、少し離れた先の空を指さした。そこには、ペスタが今殺した鬼と同じ姿の化け物が、背中に羽を生やして飛んでいる。
それは、きょろりきょろりと、辺りを何かを探すように見回している。
「世界は、ただ意識するだけでは特定の何かを認知できないのではないか、と予測した通りのことが起こってる。ああやって、眼や手となる特定の存在でなければ、感じることもできないのかもしれない」
「――それで、今は呉葉を刺激したわたし達を探しているというわけね」
「違うようですよどうにも、いえ」
イヴの推測を、ペスタが切る。にこやかな笑顔で、鋏を降ろした状態のまま。
「私を探しているようで、どうにもアレは」
「何? どう言う事だ」
「きっと、それは」
ペスタは、再びゆっくりと羅紗切狭を持ち上げた。
「ではないでしょうか視覚をきったから、見続けていたあの白い女の子を」




