《第968話》『マズッた可能性』
「……――うまく、行った?」
ドローンから送られてくる映像が、呉葉を覆う灰色の煙を映し出す。
何の前触れもなく消えたり現れたりするペスタに驚いていたが、怪人の一眼レフをこれまた前触れ無く手に引き寄せ、それを破壊させる。いとも容易く、あのよくわからない存在はそれを成して見せた。
「と言うか、近くに寄って来た所をこちらで壊せばよかったんじゃ?」
「あっちは鬼神だよ? あれでも、ボクらでは想像の及びつかない感覚を持っている。直前に察されて回避される可能性がある以上、自壊させるのは得策じゃなかったのさ。――まあ、あ、あの様子を見る限り、ペスタは例外だけど。彼女こそ、自分で壊せばよかったんじゃないかなぁ」
「――よくアレに任せる気になれたわね。他にも策は用意してたんでしょ?」
「まあ、こちらだって、時間をかければかける程察される可能性だってあったわけだし。迅速さと天秤にかけて、この方がいいと判断したんだ」
「でも、あんな初対面も同然な――」
「直感だが、彼女は敵じゃないよ。味方とも言い難いがね」
まるで意味が分からないんだけど、と。わたしが返そうとする最中だった。煙が晴れ、画面の向こうの呉葉の姿が露わになるのは。
彼女の頭上より映像を撮るドローンからは、その表情は伺えない。ただ、その開けた煙のど真ん中で、棒立ちしている。
――うまく、いったのだろうか?
「――いやぁ、」
と、その時。イヴが、ふっと笑った。
「マズいね」
「えっ。……――ッ!?」
背後から気配。振り向くと、そこには身の丈3mはあろうかという程の巨大な鬼が立っていた。
「どうやら、この世界とやらは思った以上にプロテクトをかけているらしい」
「ちょ、ちょっと、それって――!? くっ……!」
名もなき鬼が、拳を振り上げ殴りかかってくる。
だが、構えてすらいなかったわたしは、それに対応できない。
マズッた。わたしの心の中で、悔恨が一言響く――……、
……――鬼が、突然バラバラになった。




