《第967話》『忘れられたプラチナブロンド』
「ありましたね、以前にもお会いしたことが、そういえば」
「何? ――っ!」
あからさまに人間ではないことが分かる目の前の女へと、妾は全力で拳を繰り出す。しかし、それは突然消えられたことで当たらない。
「一年くらいなのでしょうか、ええと、この世界の年月にして?」
「妾は貴様の顔など、しらん――ッ!」
後ろに現れたゴスロリ女に裏拳。しかし、ひらひらと舞い落ちる落ち葉へと拳を振るっているようで、まるで当たる気配がない。
――いや、そもそも、まるで虚空に対して拳を振るっているようにさえも感じる。
「なんだか悲しい気分になりますね、忘れられているって、ううん。ぱしゃり、はい」
「!?」
飛び掛かると、また消えた。そしてすぐ下の地面に仰向けで寝転んでいるゴスロリ女がまたシャッターを切る。
――それにしても、何だこいつは? あちらからまともに仕掛けてくる様子は無いが、逃げ回るこいつを追うだけでも、相当な実力があるのが分かる。
だが、こんなヤツの噂は聞いたことが無い。これほどできるならば、その一端くらいは耳にしていてもおかしくはない筈。妾は数いる妖怪達の長だったのだ。
それに――何だ? 妾とこいつが、顔見知りだと? しかし、妾はこんなヤツ一度も……、
「――っ、ぐ、」
目に強い光が突然刺しこんだかのように、頭痛が起こる。
妾は、確かにコイツと一度戦った憶えが――? いや、そんな事は……、
「ぱしゃり♪」
「……――ッッッッッ!!!!!!!! いい加減にぃ、しろォッッッッッ!!!!」
背後からのシャッター音に裏拳を振るう。考えている最中にもかかわらず、それを邪魔するなど!
――拳が、ヤツの手に持つ一眼レフに当たった。
「!」
「ふっ、どう――だ!?」
カメラから、突如灰色のガスが弾けた。




