《第962話》『怪人出現!』
「貴様ァ! そこで何をしているッ!」
家を飛び出した妾は、塀のところにいるそいつに怒鳴りつける。
上から下まで真っ黒なシルクハット、マントの、大柄な男。まるで風船のように恰幅がよく、顔は全身とは真逆の真っ白な仮面をかぶっており、その手には一眼レフが抱えられている。
「な、なんだ貴様は!?」
流石の妾も、その異様な姿に動揺を隠せなかった。なんだこの、変質者――? は……?
「オデは盗撮怪人フ・シンシャ! 変質者ではなァい! デュフフッ」
「変質者だろうが不審者だろうが似たようなモノではないかァ!」
「オデは不審者ではなァい! 盗撮怪人フ・シンシャ! デュフフッ」
「不審者だろうが! この妾を盗撮しようなど、命がいくつあっても足りないと思え!」
このよくわからん不届き者を退治すべく、妾は鬼火を片手に湛え、球にして投げつける。とりあえず、こんな馬鹿は制裁せねば、世の中の平和を乱すに決まっている。
――が、
「何!?」
鈍重そうな見た目に反し、フ・シンシャは俊敏な動作で跳躍し、鬼火を避けた。
着弾した火球が、路面を激しく削る。
「デュフフッ! デュフフフフッ!」
「っ、待て、貴様!」
そして地面を跳ねるように、そいつは逃げていく。当然、一眼レフを抱えたまま。
アレが何者かは知らない。しかし、ご近所の平和のために。妾はアレを追わざるを得なかった。




