《第九十五話》『夫の元カノ疑惑』
「さてさて、どうしたモノか」
妾は家電量販店にて、新しい掃除機を見比べていた。しかし、知識がないので正直違いが分からない。
「本来なら、店員に聞くべきなのだろうがな――」
妾はそう言って、制服であろうはっぴを着た男をちらりと見る。
その男は、有体に言えば脂ぎっていた。もっと言うと、中年で頭頂部に毛髪が存在しないそいつは全身から悪臭を放っており、周りの客も顔をしかめるのを我慢している様子さえ見て取れる。正直、そんな人間からしばらく説明を受けるために近くにいなければならないと思うと、それ相応の覚悟を決めねばならない。
別に、人間を差別するつもりはないが、いかに妾とてこれはキツイ。というか、何故他の店員がいないのだ! カウンターへ行っても誰もおらん! この調子では会計もアレになるではないか!
と、そんな誰かに文句を言いたくとも言えない状況に、困窮しきっていたその時だった。
「ねえ、ちょっと。突然借金を背負わされたような顔してどうしたの?」
「――うん?」
妾に、声をかけてきた人間がいた。
「お前は――」
「大方、掃除機で悩んでて、あの臭い店員に聞けなくて困っている、みたいな状態なんだって分かる――何? 鳩がつまようじを喰らったような顔をして?」
「重火力兵器を持ち出されるよりよっぽど返答に困るな!? 別に何でもない! ただ声をかけられるとは思っていなかっただけだ」
勿論、そんなことで驚いたりしない。というか、何故つまようじなんだ。飛ばすものじゃなかろうに――ではなく、そんなことを思いたいわけでもなくだな。
夜貴の同期、静波多 藍妃に、こんなところで再び会うとは思わなかった。




