《第959話》『つぎはぎ』
「ホントに大丈夫――? 昨日は“いつもの”が特にひどかったけど……」
「ああ、ああ。大丈夫、だ。だから安心して、出勤してくれ」
玄関で不安げな顔で何度も振り返る夜貴を、妾は必至で笑顔を形作って見送る。しかしきっと、我が夫には見抜かれていることだろう。
「――また、か」
夜貴が行き、姿が見えなくなったころ。妾は何者かの気配を感じ、顔をしかめる。毎日毎日、身近で只ならぬ――背筋をぞわぞわとさせるようなそれが、どこかで蠢いているのを感じるのだ。
だが、誰もが口をそろえて、その場所には何もいないという。故に妾も、この自分を監視でもしているかのような気配は“何者でもない”と思うことにしている。
しかし、それを日に何度も知覚する。し続ける。朝方は何とか反応することを押さえられていても、日が傾いてきたころには精神的限界がきて、力の限りその方向へと手が出てしまうのだ。
おかげで、家は穴だらけ。狂鬼姫時代に、家をすぐさま修復出来てしまう便利妖怪を従えており、そいつを頻繁に呼ぶために家屋はまだ何とかなる。だが、削られに削られた精神のまま、夜貴がその先にいると気が付かずに拳を振るってしまうこともしょっちゅうあるのだ。
「昔は――昔は、このような筈、では……? う、く――?」
いつからこうだったのか。思い出そうとしても、記憶がぼんやりとしていてはっきりと思い出せない。
不可思議な感覚。こう、記憶から何からが、突然切って張り付けられたかのような――……、




