《第957話》『不全知不全能』
「――で、これからどうすんのよ」
わたしは、切羽詰まった状況であるにもかかわらずのんびりとケーキまで食べている幼女に問いかける。と言うか、幼女がわたしと思誓 遊のブレイン役としての立ち位置にいるというのが、まず不思議な光景だ。
「樹那佐 呉葉に、まずは自分と樹那佐 夜貴とのこの世界の鍵としての関係を思い出してもらうことにする。勿論、当の樹那佐 夜貴に対しては内緒でね」
「――でも、この世界とやらはそれを望んでないんでしょ? だから、世界をわざわざやり直したわけで」
「そうだね」
「だったら、わたし達の計画も邪魔されるんじゃないの?」
紅茶を啜る、二之前 イヴ。その振舞いや落ち着きは、とても小学校にすら上がっていない女の事は思えない程大人びたものだった。あまりにもちぐはぐである。
「それはない。――なんて言うと語弊があるだろうけど、ちょっとやそっとじゃバレないとボクは考えているよ。だから、そうなるまで行くにはかなり踏み込んでいる状況になる。と言うか、だったらこの時点で二度目のリセットを喰らってる」
「どうしてそう言い切れるのよ?」
「一つ尋ねるが、キミは自分の身体に起こる動き――電気信号の動きや血流の流れ、その細部に至るまで把握できるかね?」
「無理に決まってるでしょ――」
「ボクは、“この世界は”それと同じであると考えているよ」
二之前 イヴが、最後のケーキの一片を口に運ぶ。
「世界は全知全能ではない。世界は、自分の中で起こる事を全て把握することができないのさ。つまり、世界の状況そのモノにかかわるほどの変化、あるいは樹那佐 夜貴への接触程でないと、ボクらは認知されない可能性が高い」
そして紅茶を啜ると、にやりと笑った。これまた、幼女らしからぬ顔だ。
「スポンジ並みに穴だらけで、隙だらけだ」




