《第955話》『着地事故』
「ふぅっ、眼を開けたらいきなりコイツとか勘弁してほしいわね」
わたしの目の前で、一つ目の鬼が仰向けに倒れる。全身に焦げ跡があるのは、多方面からロケットランチャーをまともに受けたからで。いかに力と耐久に自信があれど、この程度の鬼ならば爆薬をしこたまくらわせば倒すことができる。
この鬼は、以前――というより、前の歴史の中のこの時期に置いて倒した妖怪だ。どうやら戦いの最中に丁度意識が着地したらしく。武器を構えるのが少し遅ければ、ミンチになっていたかもしれない。
「――そう言えば、あの子の言う事が正しいんだったら、時間的には昔に巻き戻ってるのよね。その時、こいつこんな倒し方したっけ……」
自身の所属する事務所は人手も実力も足りないため、一応その中では最も戦闘能力のあるわたしが駆り出されることが、最も多い。暗殺の方が得意な人員が他に一人いるが、そちらは当然人間相手であり、妖怪変化の類には対応できないのだ。
故に、今まで自分が倒した相手の事を正確に思い出せる筈もなく。それが苦戦を強いられたというのならば話は別だが、今回のようなただ突っ込んでくるだけの馬鹿相手ならば、まるで記憶にとどめていないのだ。
「――まあ、歴史にこんなのがそうそう影響するとは思えないけど。……しないわよね? ――なんだか不安になって来た」
だが、よくよく考えれば、これから場合によってはもっと歴史を変えるようなことを起こすのだ。それを考えればこれは――うん、些細な事だと思おう。
「とにかく、討伐の報告は手短に送っておいて、急いで合流しなきゃね」
わたしはスマフォを取り出し、本来なら質量オーバーのロケットランチャーをサイドポーチに収納し、その場を後にする。
――本当に、あの同期は世話の焼ける!




