《第九十四話》『食用菌類』
「よっ、エリンギ後輩!」
「その呼び方はやめてくださいよディア先輩――」
クラウディア先輩は、ぽんぽんと先日エリンギの生えてきた僕の頭を触った。当たり前だが、そこに謎のエリンギの姿はない。
「遊ちゃんに指さされたと思ったら、なんでそんなの生えてきたんでしょうね――」
「アタシに聞かれてもわかるわけないじゃないか――狼山に聞きなよ」
それはそうなんだけど、狼山先輩もここのところ忙しいみたいで、なかなか会えないんだよなぁ。当然遊ちゃんも、先輩と共に行動しているためになかなか見ない。
「というか、遊ちゃんに予言能力なんてありましたっけ――?」
「ないよ。特殊な糸を操る力があるくらいさ。ただ、無表情なくせして変な茶目っ気はあるやつだからな」
「――茶目っ気、ねぇ。もしかして、僕はからかわれてたのかな……」
僕は遊ちゃんとはあまり話したことはない。というか、あの娘は結構無口で、声すら滅多に発しているのを見たことが無い。
あるいは、狼山先輩の前では話しているのかもしれないが――。
「しいたけ」
「――は?」
と、噂をすれば何とやら。僕の時と全く同じ様子で、いつの間にか後ろにいた遊ちゃんが、また食用菌類の名を発しながら指をさしている。
「――って、アタシかよ!? おい、ちょっと待てどう言うことだ! おい、おい待て!」
しかし、ディア先輩の制止する声を聞く様子もなく、遊ちゃんはすごくご機嫌な様子で、しかし無表情で事務室から出て行った。
――その数日後。ディア先輩の頭頂部から本当にしいたけが生えてきた。




