《第950話》『概念を超越している女』
「あなたはこれからどうするおつもりですか、で?」
「…………」
「返事くらいしてください、もうっ!」
「…………」
一家で囲む朝食。そのボクの後ろで。明らかに一般的とは言い難い姿の女がぷんすかしている。
「おぅい、醤油とっておくれ」
「はい、どうぞ。あなた」
しかも、ボク以外には見えていないみたいだし。自称、概念を超越した存在と言うだけあるようだ。誰に認識されるか、されないかをコントロールするなど、朝飯前なのだろう。
――とりあえず空気さんとおしゃべりするかわいそうな人にはなりたくないので、この場は無視しておくことにしよう。
「朝は和食派なのですね。和食は好きですよ、私」
「…………」
「朝はパンがいいと思います、でもやはり。個人的には夕食としていただきたいですね、和食は好きではありますが」
「…………」
「私は断然赤見派ですね、あ。好きではありません、トロはちょっと脂が強くて」
「…………」
「鮪がいいですね、やはり鮪、勿論サーモンなどもいいのですが。和食だと私は思うわけで、鮪があってこ――」
「握り寿司だけが和食だと思うんじゃないよファンタジーガール!」
延々延々と、和食と言いつつ寿司のネタばかりを語り続けようとしていたプラチナブロンドを、ボクは思わず怒鳴りつけた。考え事をしているというのに、流石の流石に耳元で決して小さくない声で話されては気が散る!
「イ、イヴ――? どうしたんだい?」
「――はっ。い、いやとうさん、なんにもないよ」
「うふふふふっ」
なにわろてんねんこいつ。――この女、もしやボクにずっと付きまとってくるつもりだろうか?




