《第949話》『言葉を後ろから話す奇妙な女』
「――やれやれ、読んでいたとはいえ、本気でやってくれたよ神様は」
ボクはゆっくりと目を開け、周囲の光景の変化を見るなりそう呟いた。視界に映るは、二之前家のボクの実験室。ただし、“以前の”家の中に作られた部屋だ。
このまま元・狂鬼姫が樹那佐 夜貴を殺せない事は、予測出来ていた。そして、このままでは目的の達成は不可能と、この世界の意思が世界をやり直そうとすることも。
故にボクは、例え世界に変革が訪れても記憶を引き継げる装置を作った。それを一粒飲んでおけば、以前の世界での出来事を一度だけ忘れずに済む。
……一度だけの効果にしたのは、何度も生まれ直すつもりはないからである。
「おっと、そう言えばこの時期のボクはまだ舌や口の動きがうまい事いってないんだった。んー、あー、ボクナニモシラナイマエノキオクヒキツイデナイ」
……――ちょっと違うか。まあ、なるべく喋らないようにしよう。
「さて、他二人もうまく行ってるといいんだけどね。何せ、実証実験もしていないぶっつけ本番。三つとも全部がちゃんと機能するかどうかわからない」
「あと二つありますので、あなたと同じ反応を見せた相手が、大丈夫ですよ」
「ふぅ、そうかい。それは何より――」
……………。
「――とりあえずキミ、普通に玄関から入ってきたまえよ」
「驚いてくれないのですか、ええっ!?」
ボクが隣に目をやると、黒いゴシックドレスに身を包んだ、プラチナブロンドの女性が立っていた。どこから果たして入ってきたのやら。
「と言うかまず、靴を脱ぎたまえ。日本ではそう言う文化だ」
「そんな事よりももっと真っ当な反応が欲しかったんですけど、むむぅ」




