《第三話》『見えざる敵』
呉葉は、かつて狂鬼姫と呼ばれていた鬼神。数々の妖怪達を従え、一つの集団の首領に当たる鬼だった。
そんな彼女が何故僕の奥さんをしているのかと言うと、これまた紆余曲折色々あるのだが。簡単に言えば、妖怪と人間の間の不可侵をより強固にすべく、こう言う関係に落ち着いたわけである。
無論、それ以上に僕らは互いに愛し合ってもいる。――正直、あまりにも唐突であれよあれよという間に決まったことであるため未だに実感が持てないでいる。
だが、互いの事を想い合っているのは確かなことだ。故に僕らは、互いの間に問題を起こすことなくやっていけている。
ただ、一つを除いては。
「大丈夫か? 本当に、何もいないのか?」
「大丈夫、大丈夫だよ。落ち着いて」
「だが――……、……――ッ!?」
再び振り回される、鬼神の剛拳。人知を超えた破壊力が、咄嗟に僕が頭を逸らした向こうにある冷蔵庫が、まるで紙の箱のように潰れる。
「夜貴、今そこに何かが――ッ」
「い、いないよ、大丈夫だから、ね――……、」
「そこかッ!!」
僕は視線からその先を見極め後ろに飛ぶ。一撃で、台所のシンクが木っ端みじんになった。
彼女が、狂鬼姫と呼ばれる理由。呉葉は時々、何者かの気配を感じると言って、一切手加減無しの攻撃を放つ。それは妖怪達を従えていた時からであり、その意味でも、彼女は鬼神として恐れられている。
だが、彼女の狙った先には、いつも何も無いことが常。――呉葉は、果たして何と戦っているのだろうか。




