《第941話》『終わりを望む』
「だめだよ、終わらせることを終わらせたら」
「……――っ!?」
ふっと、突然顔を上げて、夜貴は――いや、その向こうにいる誰かは、そう述べた。
「僕は終わりたいんだ。だから、これだけの下準備をして永い永い時を待ったというのに。それを台無しにされてはたまらない」
夜貴は立ち上がり、妾へと近づいて来る。しっかりとした足取りなのに、どこかつかみどころ無く亡霊めいていて。妾は、一歩後ずさる。
「台無しだ、などと、妾は――」
「僕の望んだ、世界の滅び。終わりも始まりも無くどこまでも遡り、どこまでも続く円環の破滅」
見開かれた目。瞳孔には妾の姿が映る。
「その意思は、僕が僕である限り遵守されるもので、決して違えられるべきではない。それは呉葉、君もよく分かっている筈、だけど、何故それを守ろうとしないの?」
「や、やめろ、来るな――っ」
きぃんと、頭の中で高い音が鳴り響く。それは痛みとなって妾を襲い、根拠のない強迫観念となって迫りくる。
「っ、おい樹那佐! 何やってんだ!」
狼山が割って入ると、それは止む。気がつけば、心臓は壊れかねない程に拍動。額には脂汗をかいていた。
「――僕は、樹那佐 夜貴であって、樹那佐 夜貴ではありませんよ。狼山先輩」
「何を――……?」
「僕はこの世界の意思。中核にして、この世そのもの」




