《第940話》『だめだよ』
「…………」
「さて、つまり余にとっては貴様をボコボコにできるチャンスと言うわけなのじゃが! さあ、続けようかのう!」
「やるかバカ」
「ぬぉ? ほごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
――本当に自分勝手な駄狐を鬼火の嵐で吹き飛ばし、妾は夜貴の方を振り向いた。
そして、一歩。また一歩と、歩みを進める。
「っ、おい、待てよ嫁さん!」
――当然、幻影や狼山、ディアが前に立ちはだかる。
「いや、もうあんな情けない妾を曝すつもりはない。どうやら、妾が夜貴を殺すことなど、未来永劫できないらしいのでな」
「あれだけやりたい放題しておいて、今更何を言う貴様は。信用できると――、」
「待ちなって。本当に、もう大丈夫なのかい?」
「ああ」
「…………」
「…………」
「……――そうかい。じゃあ、一件落着みたいなものだね」
「っ、おい!」
「大丈夫だよ。呉葉ちんは、遠慮なく暴れはしても、正々堂々としてるからね。――それに、あの目を見れば、道を譲らざるを得ないじゃないか」
「むむぅ――」
「ディア――恩にきる」
妾は、心の抜けたようにへたり込んでいる夜貴へと歩き、しゃがんで視線を合わせる。
「すまなかったな夜貴。日常を、取り戻そう」
きっと、また同じように世界を滅ぼす意志に飲み込まれた者が、襲撃してくるだろう。
だが、その時はその時。現れるならば、片っ端から捻じ伏せればいいのだ。
世界の意思なぞに、妾は負けるつもりはない。何故なら、妾は――
「……――だめだよ」
「――っ!?」
その時。意識を無くしていると思われていた夜貴が。明確な意識を持って言葉を口にした。




