《第938話》『強者で、弱者』
「…………」
どの攻撃も。まるで手を抜いたつもりは無かった。だから、例え身を守ったとしても、その防御の上から貫き戦闘不能にまで一気に叩き落せる。
その筈だった。
「弱くなっている――? いや……だが、これは、 、 、」
この身に滾る力も。放った力も、そのどれもが以前よりも強力なエネルギーを持っている。それは確かなのだ。
だが、何故か藤原 鳴狐を落とせない。幾度となく攻撃を叩きこんでも、倒しきれない。
無論、ヤツはかの大妖怪の娘であり。半分人間で、むしろその半分が人間であるがゆえに、並みの妖怪どころか名の知れた妖怪であっても一蹴する程の力を持っている。
腐っても今までの狂姫鬼と互角の戦いを繰り広げられるような猛者で。逆を言えば、現在の妾が今までの狂姫鬼よりもずっと強くなっている以上、今更こんな駄狐如き敵では無いだろう。
無いのだ。無いにもかかわらず、何故だ。
「――うん? どうしたんじゃ、突然棒立ちになりおって。もう仕舞いかえ?」
「…………」
「無視かァ! 何とか言えい!」
「鳴狐」
妾は、狐に呼びかける。
「何故、今の妾はこれほどにまで弱いのだろうな――」
自分でも、どうしてそう口走ったのか。分からない。だが、きっとそれはおそらく、本心から出た言葉だろう。




