《第937話》『倒れぬ宿敵』
「どうじゃ――ッ! まだまだ行くぞ!」
地中から、大地を割り砕いて。剣を携えた鳴狐が飛び出して来た。
振り抜かれた剣の一撃は、反応間に合わず防御が中途半端だった妾に傷を与え。それを皮切りに、妖気を固めて作った分身二体を新たにけしかけて来る。
地面から這い出たために泥だらけ。先ほど焼かれたために煤だらけ。しかし懲りずに幾度となく繰り返された攻撃。
「――ッ! 小賢しい女狐が!」
「ぬおっ!?」
長々と付き合ってやる義理も無いと。小細工も何も無く、真下の鳴狐向けて全力で鬼火を放出する。
まさかまさか、今の妾があんなモグラ戦法で一太刀浴びせられるとは思っていなかった。
だが、これで終わりだ。どれほどヤツの幻術が巧みで、どれほどヤツの動きが俊敏であろうと。そんな隙間も時間も無い程の物量ならば、どうしようもない筈だ。
あまり、時間を無駄にもしていられない。世界を終わらせる運命の使者が、またすぐに現れないとも限らない。今回のヤツは、以前と名も無き悪魔の間から考えて恐ろしく早かった。
「お前は、もう、沈んでおけ――ッ」
最後の最後で、どうしてこんなヤツが立ちはだかったのかわからない。しかも唐突に現れて、本当に何が起こっているのかも理解していないくせに。
腐れ縁と言うヤツは、実にどこまでも面倒臭いものだった。
「――膨大な、妖力。以前の倍はあろうか、というところ、じゃのう……っ」
「何――?」
今度こそ、本気で倒すつもりだった。あるいは、消し飛んでもおかしくない程の力を、込めたつもりだった。
「躱し切ることもできず、余はこの通りボロボロじゃ――だが」
何故、立っている――!?
「心なしか、以前よりも弱くなったように感じるのう狂鬼姫!」




