《第934話》『運命を捻じ伏せる者』
「い、たた――世界が滅ぶ、か。まあ、余としては抗いたいものじゃが」
土砂の中から、鳴狐が立ち上がってくる。
通常、いつもならば何をする、と怒鳴り返し飛び掛かってくるような女だ。しかし、今日の駄狐は妙に余裕たっぷりであるように見えた。
「それを決めたのが運命だというのならば、それが受け入れがたいモノならば、余であれば捻じ曲げるがのう」
「…………」
「何故か、じゃと? 至極単純な理由じゃ」
泥まみれ、土まみれの駄狐は。しかしなぜか、不敵な笑みを浮かべている。
「運命如きが、この余の行く末を決めるなど、まっぴら御免だからじゃ」
宝剣を一度、ブン、と振り回し。刃に付いた土を払い飛ばす鳴狐。その身を包み、隠しもしない妖気は、変わらない臨戦態勢を意味している。
戦う気なのだ。一瞬の間に大きな力の差を見せられても。
「さて、前言撤回させてもらおうかのう狂鬼姫」
「――何をだ?」
「先ほど余は、てっきり貴様が人間なぞにうつつを抜かすことをやめたのじゃと、そう言ったと思っていた。故に、また張り合いがあるようになったと、そう思った」
「…………」
「じゃが、とんだ誤解だったようじゃな。今の貴様は、運命に屈し、ただ引かれた線の上をぼぅっと歩くだけの行ける屍も同然じゃ。かつての狂姫鬼の姿なぞ、微塵もない」
鳴狐が、大地を蹴る。矢の如き速さで、剣を構え突撃してくる。
「うつつを抜かしていた時の方が、何倍も楽しみがいがあるわ――ッ!!」




