《第九十二話》『何かを得るための犠牲』
「ただいま――って、埃まみれでどうしたの呉葉!?」
「む、あ、ああ、帰ってきたか夜貴。いや、なに。ちょっと、な――」
家に帰ってくるなり、最初からそこに佇んでいたらしき呉葉は、全身に誇りをひっかぶった状態だった。――どうして、目をそらすんだろう。なぜ、後ろに何かを隠しているのだろう?
ただ、その中で指にはきらりと輝く指輪が嵌っていた。僕が世間の風習にならい、心を込めてプレゼントしたそれを、今日も彼女は嵌めて居てくれる。
――じゃなくて。今は、そうじゃなくて。いったいどうしたというのだろう?
「呉葉――」
「まて、やめろ。妾のせいではないのだ」
「ま、まだ何も言って無いよ?」
「と、とにかくだ! 悪いのはあの文明の利器だからな!」
「…………」
こう言う時、呉葉は大抵自らの不注意で何かをやらかしたというのが確定している。というか、何か隠している時点で分かり切ってるのだが。
「お、怒ったりしないから言ってみてよ」
「お前が怒鳴り散らしたりしないのは分かっている! だ、だがな?」
「呉葉」
「う――」
さしもの呉葉も、観念する気になったらしい。
「その、な? 今朝掃除していて、結婚指輪を汚してはならんと外し掃除機をかけていたのだが、その、一度吸い込んでしまってな――?」
「で、でも、指輪は嵌ってるよね?」
「――いや、妾が言いたいのはそこじゃない」
そう言って、呉葉は後ろに隠していたものをちらりと覗かせた。
「とりだすためになんのかんのしていたら、掃除機が――」
「うわぁお、何をどうしたら掃除機が大破したロボットみたいになるんだろう――」




