《第928話》『鉛弾の一撃』
「早速、行われているようですね」
崖の上で、建物の前で行われる戦闘を眺めながら、私は独り言をつぶやく。
狂鬼姫と、その幻影の果し合い。戦況そのモノは、狂鬼姫側が圧倒的に有利に進めており、誰がどう見てもこの戦闘の勝者はあちら側になるだろうことが予測できる。
だが、幻影側もそれをさせまいと立ち回っていた。あの手この手と手を変え品を変え、狂鬼姫に叩きつけてゆく。樹那佐 夜貴やその守護者を意識しているためか、抑え目には見えるものの、実際には圧縮された破壊力が局地的な範囲で炸裂している事だろう。
だが、狂鬼姫はそれをほぼ棒立ちで対処していた。例え幻影が如何なる妖怪よりも強力な力を持っていようとも、今の狂姫鬼はそれすらも超越した化け物。防がれては殴られ吹き飛ばされ。空間転移から戻って来てはさらに攻撃を仕掛ける、と言った様子が幾度となく繰り返される。
「――しかしまあ、何とも律儀な鬼だ。あれだけの力差があれば、主語など無視して核を取れるだろうに。やはり、ヤツでは駄目だな」
私は光学迷彩・音響遮断装置の空間の中、聞こえていないであろう独り言を皮肉気に呟き、ライフルをセットする。脚をつけ支えることで、狙いを正確なモノにするのだ。
あの核は、ただ死ねばいいというものではない。世界を壊す運命を世界そのモノに託された者が引き起こす直接的な事象でなければ、意味が無い。私はそれを、気がつけば知っていた。言うなれば、それが私の選ばれた瞬間である。
樹那佐 夜貴の脳天に、照準を合わせる。守護者二人の間にある頭部を打ち抜くなど、この平野にとっては容易い事だ。
私は、引き金に指を添えた。
チェックメイト。この弾丸が、世界に風穴を開ける。そして世界は終わる。さあ運命の輪よ、砕け、弾け、消滅するがいい。
……一発の銃声が、空に響き渡った。




