《第926話》『降り始めた雨の中で』
「さて、室内では手狭と、外に出たはいいが」
「…………」
雨の降り始めた屋外。家屋の前の開けた場所で、「二人の呉葉」が見合う。距離こそ離しているが、二人にとってそんな距離は、無いも同じだろう。
一方、俺とディアは樹那佐を守りながら、これまた両方から距離を取っていた。呉葉´曰く、「妾一人で何とかする」らしいが。
「今の妾に、幻影の貴様が勝てるとは思えんが」
「随分自信満々だな。妾も舐められたものよ」
「今の妾には、名も無き悪魔から吸い上げた力がある。至極当然の事を言った迄だ」
「故に、無駄な事はやめろ、と? その満身に、足下掬われんようにな」
両者から、黒いオーラのようなモノが立ち上ぼり始める。それは、ただの人間である俺にすらも見ることができる、濃密な妖気――なのだろう。
「――狼山」
「ん、あ? 何だ、俺か?」
声をかけてきたのは――嫁さんの方か。
「気をつけろ」
「――は?」
その一言だけ述べて。突然樹那佐の嫁さんの力が膨れあがった。
「――っ、」
「さて、幻影よ。あの時つかなかった決着、今ここでつけてやろう」
雨足は、どんどん強くなる。




