《第925話》『終わりの弾丸』
「平野だ。引き続き、警戒を続けてくれたまえ」
明け方。私は電話を切り、スーツの内ポケットにそれをしまい込む。
自らのサングラスの裏に、樹那佐 夜貴とそれを守護する者達の潜む建物周辺の様子が映し出されている。周囲を崖に囲まれたこの寂れた建物は、既に私の監視下にある。
その映像を、少し離れた位置に留めた車の中で私は見る。窓から覗く中の景色には、二匹の狂姫鬼の姿。本物の鬼神の方が、動いたのだ。
元々、狂鬼姫が精鋭共で襲撃をかけさせるのでは、と言う事になるのを読んでいた。しかしそれは無く、今の事態に至っている。
おそらく、狂鬼姫と言えど全てが全てを絶対に支配できる、というわけではないのだろう。妖怪と言うのは、元々自分勝手な生き物。そして、その力が強ければ強い程、個体の自尊心は強くなる。
結果、例え実力の上では狂姫鬼が勝っていても、自らの存在に確固たる自身を持つ上級レベルは、時によって言う事を聞かない。
これは嬉しい誤算だと言わざるを得ない。元々それを見越し、平和維持継続室からも部隊を用意していた。狂鬼姫のしもべ達が直接襲撃をかける事態になった時、それを妨害することができるように。国内の妖怪騒ぎを収めるために出させなかったのはそのためだ。
妨害が成れば、狂鬼姫が自ら出向くほか無くなる。そうすれば、樹那佐 夜貴の守護者たちが対応することになる。即ち、その守護が他の方向からの攻撃には緩くなる。そう場を整えるのが、私の狙いだった。
「さて、では折角注意があちらに逸れている所、終わらせに行こう」
狂鬼姫が仮に守護者たちを退けたとして、樹那佐 夜貴を前に再びひよってしまわないとも限らない。故に、私が決着をつけるのが最も確実なのは間違いない。
私は車を降り、トランクの中からアンチマテリアルライフルを取り出す。一人の人間に対してこんなモノを使うのはいささか大袈裟だが、妨害が来ないとは断言できない。腰ホルスターにある拳銃共々、対魔弾を仕込んだ特別性だ。
「私が、運命を終わらせるのだよ」




