《第924話》『情けないなどと言われようとも』
人の多く住む場所から、少し離れた寂れた家屋。隠れ家としているその場所に。突然空間を開いて樹那佐の嫁さんが姿を現した。
「ほう、狂鬼姫自ら乗り込んでくるか。しもべ――例えば、四天王はどうした」
「――もとより、奴らは自分達の勝手に動く奴だからな」
「拒否されたか」
「――フン」
「それで、自ら来たと。気が付かぬ間に、狂鬼姫の威厳も地に落ちたものだな」
呉葉´は、唐突に現れた樹那佐の嫁さんに対し、そう述べる。ある意味、他の妖怪や平和維持継続室よりも、よっぽど気が休まらない。
「そもそも、どうやってこの場所が分かったんだ?」
「妾は、夜貴が何処に居ようと何となく分かる。だから来た」
「愛の力とでも言うべきか? だが、このような使われ方は皮肉もいいところだな」
ここに――樹那佐の前に、彼女が現れる事。それは、先日の宣言の通りを行いに来た以外の何物でもないだろう。
彼女曰く、名も無き悪魔と同様の運命を背負った世界を滅ぼす者として。その核だと言う樹那佐を殺しに来たのだ。
「――呉葉ちん、本当に本気かい?」
樹那佐を守るようにして。ディアはこの狭い部屋の中、刀と拳銃を抜いている。
「くどい。次は必ず、と言った筈だ」
樹那佐の嫁さんの眼。その眼差しは、あらゆる混沌の入り交じった様相を呈していた。




