《第921話》『楽しみがいのある自由』
妾はあまり芳しくない状況に、別の作戦を実行に移すことにした。
その作戦に必要なのは、個体個体が強い力を持っている事。いわゆる精鋭と言うヤツで、その中でも選りすぐった数人を用いた襲撃作戦を考えた。
――のだが、
「おい、来たのはお前だけか」
呼んだのは、狂鬼姫・四天王。来たのは――アロハシャツのジジイ、剣奉だけだった。
「どーやらそのようだぜ。まあ、元々奴らは特に我のつええフリーダムな連中だからな」
「お前もだろ。まあいい、呼びかけに応じてくれたことには礼を言うぞ、剣奉」
「おっと、勘違いしてくれるな。儂はお前さんの命令を聞くためにわざわざ来たわけじゃねぇ」
「どう言う事だ」
白髪が大半の、短く刈り込んだ頭。サングラスまでしたその姿は、ちょい悪おやじ然としている。昔はもう少し、マトモな姿だったのだが。すっかり今の時代に染まっている。
だが、その本質は常に変わりない男だった。妾の下に付いたのも、かなり気まぐれなところが大きく、面白そうだから、という理由。しかも、そのクセ。いや、だからこそ、言う事を聞かない。
「お前さん、ちょっとの間につまらんくなったなァ?」
「――何?」
「ちょっとっつても、妖怪の尺度で計った時間じゃねぇ。人間の尺度。それも、一か月の単位での話だ」
こいつ、何が言いたい――?
「儂はな、基本面白けりゃなんだっていいのよ。好き放題モノをぶっ壊すだとか、数日夜通し酒飲んでどんちゃん騒ぎだとか、世界旅行だとか。他人の色恋沙汰だって、何だって楽しみに変えられる」
「…………」
「つまるところ、儂は自由ってヤツが好きでなァ。外国のどうたら言う哲学者サマとやらは、道徳に則って行動するのが本当の自由だと説いたらしいが、儂にとっちゃそんなモノ詭弁よ。いや、視野がクッソ狭ェと言うべきか。本能の赴くままに、その時感じた想いの通りに動くのが自由ってモンだ。その行動原理が本能だとか道徳だとかどうでも良くて、それが自由で、それが楽しいのが儂だ」
剣奉は、やたらと皮肉気な笑みを浮かべる。そして浮かべて、もう一度言うぞと、前置きする。
「ぶっちゃけ、今のお前さんつまらねぇぞ」




