《第920話》『正気と狂気』
「――どうにも、向こうの目論見とは違ってきているみたいだが。一つ、それはそれで気になることがある」
「なんだ?」
呉葉´は、窓の外を眺めながら。しかしこちらを振り向きはしない。一応念のため、外を見張っているのかもしれない。
「しもべ達に、どうして俺達を直接狙わせていないんだ?」
「む――」
「あいつの狙いが、俺達の戦力の分散なら、それをするのが手っ取り早いだろ。どうして、周囲から圧力をかける、何て言う回りくどいやり方をしてるのか、俺には分からないんだが」
そして、それをすればすぐに片が付く。聞けば狂鬼姫は、相当な数の部下をかつては抱えていたという。その全員が全員、一度解散させた主の命令を聞くかどうかは分からないが。
「簡単なことだ。しもべの身を案じているんだよ、ヤツは」
「は、ぁ――? 案じてるっつったって、そもそもあいつは世界を滅ぼそうとしているわけだろ? 滅んだら同じじゃねぇのか」
「そう言う状況でも、妾、もといヤツはそのようなことを気にするヤツなんだよ。世界が終わっても、生かせる方法があるかもしれない――などと言う事もないだろうが、結果を見れば意味がないようなことでも、拘る傾向がある」
もはや正気なのか狂気なのか、分かったものではない。ただ一つ言えるのは、極めて理性的に、彼女が世界を滅ぼそうとしていることだ。樹那佐の命を奪い。
「平和維持継続室の連中が出てきても、すぐに逃がせるようにもしているだろうな。だが――計画がうまく行かなかった今、ヤツは次の作戦を行動に移してくるぞ」
「――何が予想される?」
呉葉´は、ちらりとこちらを振り返る。赤い瞳は、部屋の隅でもたれかけさせた樹那佐を見ていた。
「一筋縄ではいかん召集精鋭で、襲撃がくる」




