《第919話》『同じ思考』
「む――どう言う事だ」
妾はしもべ達の作戦行動に関する現在の結果に、疑問を覚えた。本来来るはずの介入が、全く音沙汰の無いことに。
ちなみに彼らに与えた命令は、適当に建物や施設を破壊しろ、程度のモノで、詳細な指示は今のところしていなかった。何せ、適当に暴れていれば平和維持継続室の連中が顔を出す。
明確に出した指示と言えば、奴らが姿を現した場合は交戦せずに、その場から退避すること。あるいは連絡させるかだ。後者の場合、送り込んだ時と同様空間転移でこちらへ一時帰還させるつもりである。
「――本来の想定とは違う状況。まさか、あいつか?」
妾の脳裏に、もう一人の妾――幻影の狂姫鬼の憎たらしい顔が浮かぶ。詳細な部分こそ違えど、物事の考え方には大分類似性がある。
もしあいつが、平和維持継続室にこの状況を予期させる情報を流したとしたら? ――奴らが妖怪をおいそれと信じるとは思えないが、あり得ないことではない。
「だが――それにしても奇妙だ」
奇妙。かと言って、ここまで易々と破壊を許すものだろうか。仮にこの状況の核を理解していたとはいえ、何の反応も無いのは、恐ろしく不気味である。
事前情報を認知していた場合、セオリーで行けば守りを最低限に、主犯たる妾を探す別動隊的なモノが出てくる筈だが。
「もしくは、後者のみを動かしている? いや、しかし――奴らは妖怪の存在が、世間の明るみに出ることを恐れているからな。となればこれが意味することは、なんだ……?」
現状、夜貴の周りは固められたまま。平和維持継続室の連中が動かねば、頑強な壁に一穴開ける事が出来ない。
「――まさか? いや、あり得なくもない、か。だが、それこそ奴らが信じるのか?」
夜貴がこの世界の核である、という話。もしあちらに伝わり、しかもそれを何らかの理由で信用していたとしたら?
――低確率とは言え、次の策の準備をしておく必要が、あるかもしれない。




