《第918話》『不安定要素』
「ほう、狂鬼姫が動きましたか」
各地から中継地点を介して伝えられる状況を聞きながら、私は返り血を受けたスーツを私室で着替えながら、どのように自分の策を展開するか思考を巡らせる。
「各地で起こる妖怪騒ぎ。それに対して出動を止めるのも楽ではない」
ここで彼らを出してしまえば、あちらの作戦を阻害しうる可能性もある。無論、あちらの企みは核周辺を守る三人、その分散だろうが。私は幾多の妖怪達によるそれを望まない。その役目は、他の誰でもない狂鬼姫にやらせたいのだ。
そもそも私は、大した戦闘能力を持っているわけではない。樹那佐 夜貴を守るのは、平和維持継続室でもトップクラスの実力を持つ者、そして実力は未知数だがおそらく狂鬼姫に匹敵する力を持った幻影。これらすべてを退けるには、私一人の力では不可能だ。
加えて、平和維持継続室の戦闘員でもこれを崩すのは容易ではないだろう。狂姫鬼は多量の人員で脆くさせようと考えていたようだが、それはヤツ自身の力も勘定に入れた場合だ。
「だが、それでもやはり確実ではない」
狂姫鬼は世界を壊す運命を託されているが、その思考はフリー。即ち、完璧ではない。本人は今その気であるようだが、感情の面で揺り動かされやすく、そこから再び樹那佐 夜貴を守る側につかないとも限らない。
「加えて、ヤツは今仕組みを知ってしまった。もし使命を放棄すれば、より私にとって厄介な相手となり得る」
樹那佐 夜貴を――核を葬るのは、運命を背負いし者でなければならない。仮に他の者に殺されてしまえば、核はこの世界の上から隠れてしまう。
「ならば私が行うべきは、確実な結果へと導くこと。狂姫鬼には、せいぜいそのサポートに徹してもらうことにしよう」




