《第917話》『行動開始』
使われていない家屋にて、息を潜める俺、ディア、そして呉葉´。次なるアクションを待つべく待機していると、突如部屋の明かりがふっと消えた。
「っ、何だ、停電か?」
「妾――もとい、あちらの呉葉が行動を起こし始めたようだな」
呉葉´は、落ち着き払った様子でそう言った。元々電灯は弱い光だったが、それでさえ、消えれば何も見えなくなる。
夜が明け始める、一時間前だ。
「つまり、呉葉ちんは今から来るってことかい?」
「いや、すぐには襲い掛かって来ることは恐らく無い。我々全員を相手取るのは、ヤツでも骨が折れるだろう」
「――だったらこいつは、さっき言った通り撹乱か」
「ああ。本来これで平和維持継続室の連中を片っ端から出させ、我々を精神的にも、肉体的にも追い込むつもりだっただろう。狂姫鬼の手下に探されているかもしれない。平和維持継続室の連中の標的になるかもしれない、という二重苦だ」
だが、と。呉葉´は逆説的な言葉を置く。暗闇のせいで、どんな顔をしているのかまるで分らないが。
「奴の企みを仄めかせた。それらを纏めている者が存在する、という事実がある以上、平和維持継続室はそいつを探さねばならない。理由は簡単、かしらを取ることが、混乱解決の早道だからだ。妾であろうとあちらであろうと、そのリーダー格と思しき相手を見つける必要がある」
「つまりアンタは、呉葉ちんがアタシらと対峙する際、少しでも対応しやすい状況を作ってる、ってことだね」
「多数の方面から槍を刺されては、戦力分散もいいところだ。現状、人員がこれだけしかいない今、少しでも現象の確率は避けねばならないのだ」
しかし――と、呉葉´は逆説をまた一つねじ込む。
「この状況そのものを収める方法は、まだ見通せない。ならばヤツに詳細を問う他ない。だからこそ、早く焦れて直接来てもらいたいところなのだが」




