《第916話》『オーバーテクノロジーに囲まれて』
「ボクの祖父、零坐が召集に応じたよ。そう、あのアホの鬼神の集まりさ」
ボクは自室の機材で作業をしながら、友人に語り掛ける。ボクは部屋の中を歩き回っている一方、彼女は大人しく椅子に座ってじっとしている。
「うん? そりゃそうさ。不満だらけで愚痴も漏れるというものだよ」
むしろ、ボクとしては下手にこの部屋のモノに触られたくはないのでそれがありがたかった。棚には薬品、周りはコンピュータとその配線。一度破綻すれば、ドミノ倒しのようにその均衡は崩れ去るだろう。
「彼は大事な事を一切言わなかったけど、カマをかけたら核を形成する材料をわんさと出してくれた。そうして導き出されたあの鬼の召集は、心底下らない理由で――無意識にため息をついてしまいそうになる」
彼女は黙っているが、それが彼女にとっての平常である。首肯すらしないが、ちゃんと聞いているのである。
「さて、キミはハッピーエンドとバッドエンド、どちらが好みだい?」
彼女のほとんど変わらない表情から、その答えを読み取る。
「それはそうだ。大概の人間はそちらを好む。バッドエンドの物語が悪いとは言わないが、近しい人間がたどり着く運命ならば、当然そのほうがいい」
回答は分かっていた。だが、聞くことに意味があった。会話とは、ボクにとってそう言うモノで、そんな音のやり取りが心地いいのだ。
「全く、自分の百分の一も生きていない幼女に世話を焼かせるつもりかい、あの鬼は。まあ、どちらかと言うと樹那佐 夜貴のために、ボクは今やっているんだけど」
さて、このバッドエンド直行なこの運命を、いかにして捻じ曲げられるか。この二之前 イヴに不可能な事などないとはいえど、いささか緊張はせざるを得なかった。




