《第912話》『狂鬼姫の忠告』
「理解の早いヤツがいて助かる。ならば前置きは抜いて、ストレートに述べさせてもらおう」
呉葉´はそう言って、平野に対して笑みを浮かべる。これまた、相手の行動に称賛を贈るような不敵な笑みだ。対して平野は穏やかな微笑みを浮かべているが――サングラスのため、その目元までもを伺い知ることはできない。
「この街は地獄と化す。近いうち、かつての狂鬼姫の一派による大規模な行動が起こるだろう」
「ほう」
呉葉´の言葉に、部屋の中をざわめきが支配する。
「お、おい、その一派を統率しているのは、お、お前ではないのか!?」
そう言ったのは、平和維持継続室統括側で、もっとも最年長と思われる男だ。杖を突き、痩せ、頭は薄い白髪が覆っている。
「だから、さっきも言ったように妾はヤツにあってヤツではない」
「まるで意味が分からんぞ――! 説明しろ!」
「その説明をしている時間がもったいないぞ童」
「な、何ィ――?」
「それよりも、妾は嬉しいぞ。狂鬼姫一派の強大さを理解している者が存在してくれて」
「彼はあのように見えて、術によって300年生きながらえてきた、いわば長老に当たる立場。ある意味で、この中に置いて最も敵対していた時間の長い人物です」
「それは失礼。小僧だったか」
なぜその最長老にいじりの矛先が向いたんだ。
「しかしなるほど。つまりあなた方は、市民を超常から守る立場にある我々に、わざわざ将来的に起こり得る危険を知らせてくれている、と」
「ああ、その通りだ」
「理解しました。――ですが、それに当たって一つ問題があります」
平野は、サングラスの弦を、眼鏡をなおすかのようにくいっと上げた。
「あなた方が信頼できるか否か。まずはその証明をお願いしたい」




