《第902話》『決意表明』
「く、呉葉ちん――?」
「貴様――何を吹きこまれたのか知らないが、どうせ与太話だろうに。信じるのか?」
動揺する、ディアと呉葉´。俺も同じ気持ちで、その話を耳にした。
「説明せよと言われても困難だ。これは妾にしか理解の出来ない感覚だからな。だが、妾は夜貴の命を奪う。そこにいる、我が夫のな」
「貴様――愛していると。愛の力で今の自分が在ると妾に啖呵を切って見せたのは虚言か?」
「虚言ではない。随分懐かしい時の話のように思えるが――あの時口にした言葉は、本心以外の何ものでもない。そして、その時からずっと。あるいはそれ以上に、夜貴を愛している」
「ならば何故――!」
樹那佐の嫁さんを睨む、呉葉´。片方が分身と言うだけあってその容姿は瓜二つだが、一方の表情は険しく、一方の表情は苛立ちに満ちている。
「――それは、妾が夜貴を愛しているからだ」
「意味が分からんぞ! 死と愛の二点にどう繋がりがある!」
「…………」
樹那佐の嫁さんは答えない。代わりに、険しい顔を更に険しくしかめる。
――すると、
「ね、ぇ――?」
樹那佐が、嫁さんへと声を掛ける。
「どうして、君はそんな辛そうな顔をしてるの? 大丈夫――?」
「っ、」
「君は誰で、どこから来たのか知らないけど――もしよかったら、相談に乗るよ……?」
「っ、く――!」
嫁さんが、くるりと背中を向けた。
「――ともかく、そう言うわけだ。今、少しだけ時間を与えてやる」
そして、空間の裂け目を開く。
「次に会いに来た時。それが、この世界の最後だ」
そう言い残し、樹那佐の嫁さんは消えていった。




