《第901話》『昨日の味方は今日の敵』
「お前達無事か!?」
突然空間が裂けたかと思うと、そこから樹那佐の嫁さんが飛び出してくる。その顔には確かに焦った様子が滲んでいるが―――、
「――アイツは居ないのか?」
「アイツって、誰の事だ」
「妾だ」
――いきなり意味が分からなかった。それを察したのか、あからさまに苛立った様子を隠しもしない。
「察しの悪いヤツらめ、いわゆる、幻影のこの『妾』ではない! オリジナルの方だ!」
「え――あ、ああ! アンタ呉葉ちんの!」
「そう言う事だ! ――そして、のんびり話している時間は無いかもしれん」
樹那佐の嫁さんの幻影の方、いわゆる呉葉´は、神妙な面持ちでそう言った。樹那佐の方を見下ろしながら。
程なくして、またもや空間の裂け目が出現。そこから、また樹那佐の嫁さんが現れる。こちらは本物の方だろう。
――だが、その表情は俯いていて読めない。
「あっ、呉葉ちん! アンタ一体どこへ――」
「名も無き悪魔はどうした?」
呉葉´は、樹那佐の嫁さんにそう問いかけた。
「屠ってきた」
「――だろうな」
「そして、」
俺は、空気が急激に冷え込むのを感じた。
「夜貴の命も、もらい受けに来た」




