《第899話》『真実が真実を知る時』
「くっ、くく――」
「どうした? 圧倒的力差に、笑うしかないかえ?」
駄狐が見下ろすその足元。そこには身体を肩口から裂かれて倒れ伏す奇術師の姿があった。藤原 鳴狐は、そんな名も無き悪魔の分身を嘲笑っている。
妾達は名も無き悪魔の分身を叩き潰した。奇術師はこの通りで、毛むくじゃらはすぐそこで倒れ伏し燃えている。ローブももはや動かないし、ドレスは完全に消し飛んだ。
つまり、勝負は完全に決していた。実際、奇術師の顔は満身創痍。次なる手も、もはや残されていないように思える。もはや、妾が樹那佐 夜貴や樹那佐 呉葉の元へと行くことを邪魔することはできないだろう。
だがなんだ? この意味深な笑い声は――、
「そう、とも。笑う他ない。これが笑わずにいられるか」
「――なんじゃ? 何を言っておる」
「同胞が、この世界の真実を知った」
真実。奇術師はそう口にする。この世界の真実とやらをヤツが知ることにどう言う意味を持っているのか、それは定かではないが――何か嫌な予感がする。
「まるでわからぬ、という顔をしている、な? ハハハッ、それも当然だろう。ただ運命の輪の中で定められ、その枠の外へと逸脱することの出来ぬ汝らには」
「ワケのわからぬことをごちゃごちゃ喋りおって! 貴様との会話はもはや付き合いきれぬ!」
鳴狐は九つの尻尾の先端で炎を交じり合わせ、巨大な火球を生み出す。
「ククッ、世界の終わる様を見届けるのに、分身という吾が身はふさわしくないか」
「消し飛べ!」
鳴狐は紅蓮の珠を奇術師へと叩きつけた。高熱の炎が、その姿を一瞬にして灰にする。
「フン! 余にはたらいた無礼、この一撃で清算してくれるわ」
「――駄狐、妾は一足先に行かせてもらうぞ」
「何? 突然どうした、どこへ――」
駄狐の声を最後まで聞く前に、妾は空間転移を行う。
偽りのこの身ではあるが、胸騒ぎが抑えられない。




