《第八話》『事態で最も被害を受けたかわいそうな物体』
「貴様、貴様、貴様貴様貴様ァ! よくも妾の夜貴を誘惑し、最後にはこんなひどい目に合わせてくれたなァッ!!」
「呉葉ちーん、後輩君の状態に関してはアンタのせいだと思うぞー?」
組織の事務所に来て早々、どうしてこんな目に合わなければならないのだろう? と、呉葉の膝の上で介抱されながら僕は思う。
「なにおう!? 卑劣な悪事に手を染めておきながら、言い訳しようというのか!」
「いやいや、だから、ね? 後輩君もとい旦那さんラヴなのは分かったからさー」
「外へと出る前にと、こうしてお弁当を届けに来たら、まさか妾の夜貴が淫乱な脂肪の塊なぞに淫行を受けているとは――っ!」
「話聞いてねぇし! というか、その表現はアタシが太ってるみたいじゃん!?」
いや、まあ、先輩にも悪いところは――というか、おおもとの原因はあなたなので、あなた自身も全くの無実というわけではないのですが……。
――ところで、それはそれとして……、
「く、呉葉ぁ――ちょっと、いいかな……?」
「む? なんだ? なんでも言ってみろ。あの女を血祭にするか? それとも、組織そのモノを壊滅させるか? それともそれとも、いっそ妾がお前の全ての世話を――、」
「そ、そうじゃなくて――」
呉葉は目を瞬かせ、僕がこれから言おうとしていることの想像が付かないようだった。どうやら、言葉には出てきても、存在自体は完全に頭から抜けている様子らしい。
「えっと、その――お弁当……どうしたの?」
「――? ……? ――……?」
呉葉は僕の言葉を聞いて掌を見た。両側を見た後、部屋の中を見渡してから――遠方の床の上に引っくり返っている風呂敷に包まれたそれに気が付き……一瞬固まる。
そして、これ以上ないほど青ざめて叫んだ。
「しぃまったあああああああああああああああああああああああああああああっっ!!?」