《第898話》『繰り返されるループの中で』
「っ、お前は何者だ――! よもやこの世界の意識とでも言うつもりか!」
頭なのか、周囲になのか。響く声に対し、妾は声を張り上げる。
その声が、何故夜貴の声をしているのか。何故妾へと語り掛けるのか。
そもそも、これが幻想ではないという証拠はない。証拠は――……、
「――っ!?」
ドクンと、心臓を――いや、魂を殴りつけるような衝撃が、妾を襲う。
そして、その一瞬の間に妾へと流れ込んで来た光景。
何度も何度も繰り返された世界。そこに妾はいた。夜貴はいた。妾の知る全ての人物がいた。
その光景の中には、二人の子を――謳葉や活葉を夜貴との間にもうけた妾の姿もあった。平安の世で、ひっそりと天寿を全うした妾もいた。
それは全て輪の上で循環し、ある一点が来るごとにそれは始まり、終わる。存在の発生があらかじめ定められた運命の上で起こり、時が流れる。
平行世界など存在しない。全ては、一つの軸の上で展開される出来事。命が自覚できる「時」の範疇を飛び越えた無限の「空間」が繰り返される。
それが、一つの世界と言う枠組みの正体だ。
「っ、やめ、ろ――ッ」
無限に。永遠に繰り返される世界。多少の差異あれど、同じ光景が何度も何度も、何度も何度も何度も何度も。
そしてそれは、終わりを望もうとも終わらない。世界がその世界である限り。終わりの存在しない中、一人在り続ける。
一瞬の間に、妾はそれを見た。体感した。その一端を、この限りのある精神の中で味わった。
苦しみ。永遠の孤独と言う苦しみ。
そして、それを終わらせる方法は一つだった。
「核を――」
世界が自らの中に定め存在として落とした核を、壊すことだった。




