《第897話》『運命の輪』
世界とは、一つの輪だった。
時間と空間が一本となって絡み合い、点と言う命達の下を流れ永遠に終わらぬ循環を繰り返す無限回廊。
終わることなく延々と続くその上を。無数の命は生まれ、死に。生命を繋げてその先へ、その先へと繋げていった。繰り返す世界の中、終わりも始まりも存在しない一つの誰のものでもない箱庭は悠久の時を巡らせていたのである。
しかし、世界には。世界そのものには意思があった。
それは丁度、人間がその頭脳の中に自分だけの世界を創り上げるように。電気信号が走り回り思考するような工程を、輪という脳と命と言う輝きによって形成している。
即ち、世界の意思そのものが命であり、命こそが世界を形成する根幹だった。
しかし、一つの命には限りがあった。循環する世界の中、その命の所在が戻ってくるその時こそあれど、いつか一度終わりを迎え再び来るその時を待っている。
世界もまた、そんな無数の命と類似した感覚を持っていた。規模の違いこそあれど、始まりと終わりを命と言う思考が持っている以上、世界もまたそれに準じていた。
――いや、あるいは逆なのかもしれない。それは、世界が望んだから組まれた法則なのかもしれない。
無限とは、文字通り「限り」の「無い」事。永劫に終わらぬ事。仮にそれが、隣に語らう者でもいれば話は違っただろう。しかし、他者を自分の中にしか作りだせず、絶対的に己と異なる存在は、隣には存在しない。そんな己と他者の境界すらもあいまいになり、「無限」に、孤独に思考を続ける。
それは、一つの意志にはあまりにも耐えがたきことだった。
だから世界はあるとき。自己の中に、自己を滅ぼすべく自己を逸脱した存在を作り上げた。




