《第893話》『張り巡らされた根』
「おいコーハイ! 起きろ、おい!」
「ぅ、ん――?」
「また例のアレか? ――っ、うおっ、何だこりゃ!?」
呉葉ちんからメールを受け取ったアタシらが現場に到着すると、路上に倒れているコーハイ、樹那佐 夜貴を見つけた。
加えて、彼とその妻たる呉葉ちんの住居には大穴が空き、周囲の地面には抉れた跡がいくつも残っている。
なお、メールの文面は全くの白紙だった。通常、手違いでそのようなメールが送られてくることなどあるわけが無く、そこから二人は緊急の事態を察したのである。
「おい樹那佐、これは一体何があったんだ!? 例の悪魔が現われでもしたのか!?」
「…………」
「コーハイ?」
何か様子がおかしい。ぽかーんとしているというか、心ここにあらずと言うか。
何も、分かっていないというか。
「局所的な記憶喪失が悪化したのかい――?」
「分からねぇ。原因もそもそも、何も分かっちゃ――」
大切な後輩の異変に、二人で困惑、どうすべきかと思い悩む。何らかのアクシデントがあって、呉葉ちんがその対応をしていることを考えるなら、コーハイをこの場から動かした方がいいのだろうが。
遠方で、名も無き悪魔が何者かと戦闘を行っているのは知っている。しかし今自分達が出ていくことは、平和維持継続室から追われている身。おいそれと出ていくことはできない。
――そんな時だった。突然、空間が嫌な振動をしたのは。
「っ、何だ?」
まるで皮膚に巣食っていた細長い寄生虫を、無理やりずるりと抜いたかのような、そんな感覚。それが、今どの場所ともつかない――敢えて言うならば、空間の中に走った。
それで思い至るのは、名も無き悪魔の世界崩壊へのプラン。世界と言う空間の中に自らを割り込ませ、そこから空間ごと破壊するという、パッと聞いた程度では理解の困難なその方法。
「あの悪魔が、世界を滅ぼすとか言う妄言に王手をかけてでもいやがるのかい?」




