《第892話》『勘違い系を装った何か』
無人島に、巨大な空間の裂け目が生まれる。
「――やれやれ、夜貴を守るのも楽ではない」
その裂け目は、小さなビル程度ならまるまる飲み込んでしまえるほどの大きさ。それが、全裸の銀髪女の背後に出現。どこまでも続く常しえの闇を湛えている。
「よくわからんこんな化け物に付きまとわれ、妾達夫婦はいい迷惑だ。しかも理由が、これまたよくわからん難癖と来ている」
「ならば諦めて、己が使命に準じてみてはいかがかな?」
裂け目から、無数の触手と同じく無数の口が這い出してくる。それはまるで手の届く全てを掴み、その全ての口で何もかもを喰らいつくそうとしている貪欲な何かだ。
「それもまた、貴様が勝手に押し付けた事だろう。誰がそれに従ってやるものか」
「やれやれ、同胞はなかなかに強情だ」
「だから、言っているだろう――!」
何度目かになる無数の鬼火玉を、周囲に展開。纏めてそれを銀髪女と背後の化け物へと叩きつける。
「誰が同胞だ――ッ!!」
炸裂するなり、化け物の触手と口はいとも簡単に破裂していく。しかし、後から後から新たなそれが生まれ、まともに傷を負わせている気がしない。
それこそ、まるで実体のない闇へと攻撃しているかのような気分だ。
「だから折角、吾がその使命を思い起こさせてやろうというのに」
「しつこい! 勘違い型のヤンデレか貴様は!」
鬼火を凌いだらしき銀髪女に隣接。拳を振るう――が、ヤツは後ろへと跳んだ。
自ら、触手の中へと飛びこんだのだ。
「さあ同胞よ、吾が思い出させてやろう――!」




