《第889話》『鬼と狐の協力攻撃』
「ククッ、紛い物と獣。確かに双方共、その手に持つ力は強大だろう」
宙に浮く毛むくじゃらが、二振りの剣を叩きつけてくる。妾と狐は、それを互いに反対方向に跳んで回避した。
「駄狐! 一先ずあのエラそうな位置に立っている奇術師を引きずり落とすぞ!」
「余に命令するでない!」
妾は無数の鬼火玉を。駄狐は無数の狐火玉を撃ち出す。それはどちらも、奇術師を狙っている。
「その程度の単調な攻撃――!」
奇術師周囲の毛むくじゃらの肉が持ち上がり、妾達の放った炎をせき止める。直撃を受けた肉は焼けこげるが、その向こうの奇術師は全くの無傷だった。
「そもそも、吾を狙おうとこの肉塊は崩れなどしない! これもまた、吾が本体の意志により結集せし存在だ!」
「そうだろうな! だが、今全体の連携を繋いでいるのは貴様だろう! 要たる貴様が消えれば、その有象無象共の集まりはどうなるか、試したくなってな」
「クハハッ! 悪くない洞察と言っておこう。ならば成してみるがいい!」
毛むくじゃらの腹の口が、再び赤い光をその奥に湛える。しかし、先程の通り、照射まで時間が必要のようだ。
「そのような構えで――!」
「ああ、そのままで当てられるとは思っておらぬ。故に、小細工をさせてもらう」
「っ!」
背後に気配。振り返ると、無表情のローブ姿が真後ろに迫っていた。
その衣服のなかから、触手が分離し妾の手足を拘束する。
「ハッ!」
しかしその触手を、駄狐が剣で斬り捨てた。妾は地面を蹴り、その場から退避する。
直後、またもやあの熱線が街を削り取った。
「礼でも言えば満足してくれるか駄狐?」
「囮に早々に消えてもらっては、楽が出来んだけじゃ!」
「…………」
駄狐が、ローブの方へと剣の切っ先を向けた。




