《第888話》『お友達』
「くはははははっ! 無様じゃなァ狂鬼姫! 失望したぞ!」
腹の立つ高笑い。それと同時に拘束が緩む。
足を縛っていたローブは何処かへ逃げ出し、ドレスは分からない。身体は自由に動かせる。そして何より、毛むくじゃらの赤い光は今にも爆ぜそうだ。
「くっ――!」
妾は地を蹴りその場から退避。すぐさまその場所を、赤い閃光が貫く。
大地を貫通せんとでもいうような真紅の熱線は、地上を大きく抉った。その余波はその先を激しく膨張、爆破し、海面を泳ぐ鮫のごとき地割れが巻き起こる。
「――よもや、同胞のお友達がこの場に現れようとはな」
奇術師は毛むくじゃらの肩に足をつけながら、忌々し気にそう呟いた。その視線の先は、片側五車線の太いメインストリート、その中央に向いている。
「あん? 何の話じゃ」
そしてそこに立っていたのは、金色の尻尾を九つ揺らす、十二単の狐妖怪だった。
「ああ、ともすれば狂鬼姫の事を言っておるのかえ? 誰が友達じゃ。ただ余は、あまりにもドタドタうるさくて適わんから来ただけじゃ。手助けしてやったのは事実じゃが、あんまりにもその姿がアワレでのう?」
長い黒髪の上に金色のとがった耳を立たせ、相も変わらず容姿だけはいっちょ前に整った顔を嫌味な笑みで歪めている。
「アワレ、アワレ、ああ憐れじゃ。狂姫鬼ともあろう者が、あの程度で苦戦しておるとは」
「…………」
「お? なんじゃ、悔しくて言葉もでぬか? ん?」
「いやいや、あんまりにも小さなことを大きなことのように言い張る貴様がアワレで絶句していたところだ」
「なにおう!?」
九尾の狐・藤原 鳴狐は、相変わらず煽り耐性ゼロだった。ちょっと言い返すと、すぐムキになって怒鳴り返してくる。
「同胞のお友達。そやつは同胞ではない。その偽物だ。汝が敢えて助けてやる義理などないぞ?」
「貴様は貴様で、二度言わねば勘違いが解けぬ程の脳足りんのようじゃのう?」
「何?」
「言ったじゃろう。余はただ喧しいから、それを黙らせてやるためにここまで来たと、な」




