《第883話》『マジックショーの始まり始まり』
奇術師がステッキを振るうと、その周りに6つの空間の裂け目が生まれる。
「手品を拝見している暇などないのだが」
「つれないことを言ってくれるな。その身、消え行く迄楽しんで行けばいい」
空間の裂け目から、黒いカラスの群れが飛び出してくる。それらは全てヤツの作り出した力の塊だろう。
「手品をするなら白い鳩だろうに。む――」
ローブの姿がかききえたかと思うと、妾の横から襲い掛かってくる。布の隙間から、無数の触手を蠢かせながら。
「それまでのヤツらより数段早いか」
「…………」
それらの突きを妖力で障壁を張りつついなす。全方向に張れば、カラスもついでに防御できる。
「そんじゃ、死んでや?」
「!」
その声に見上げると、ドレスがその両腕を一つの巨大鉄球に変えて殴り掛かってくる。
跳躍から、空に浮かぶ月のごときそれ。乱雑に突起の生えたそのハンマーを、そのまま障壁で受ける事にした。
「ククッ、受けたな?」
「それがどうした? ――何?」
無数のカラスもローブも、気が付けば居なくなっていた。正面にいるのはドレスだけだ。しかし、異変はそれだけではない。
突如、足元のビルが崩壊を始めた。
「衝撃を受け止め切れなかったか。だが、妾の守りはそれで破る事はできんぞ」
「吾らもそのような事は百も承知よ」
その言葉の後で――、
「っ!」
妾は、得体の知れない気配を知覚した。




