《第880話》『二つは一つ』
「ええい――ッ」
白い女の子の全身から妖力が迸ると、彼女の身体に絡みついていた銀髪はばさりと解けていった。しかし、破られたというよりは、離してやったとでも言わんばかりのほどけ方だった。
「そもそも、吾の生まれ落ちた醜き世界も、この美しき世界も、一つのくくりのなかに収まっている。いわば二つは、異なっているようで同質のモノなのだ」
銀髪の女性が掌を顔の前でかざすと、シャボン玉が生まれた。その中にまた、二つの泡が浮かんでいる。
「本来、吾のような存在は、この巨大な泡の中で一つしかいない。当然だ、同じ意志とは複数並び立ってなど居るはずがないからだ」
「どんな高説も、伝わらねば意味を成さんぞ――!」
白い女の子は、僕を小脇に抱えると後退しながら炎の玉を連射した。
着弾によって起こる爆炎が、銀髪の女性の姿を覆い尽くす。
「である筈なのに、吾と汝がここに存在する。『特定の何かを害したい』。その何か一つへと向かう何らかの意図は、並行して複数存在するのではなく、必ず一つである」
だが、粉塵が晴れた場所には、やはり無傷の女性が立っている。
女性は、しゃぼん玉を握り潰す。
「例えば汝が今吾を害そうとしている。だが、その意志は一つだろう? それと全く同じ思考が、汝の中に複数存在しては居るまい」
「悪いな。妾は哲学などさっぱりなんだ!」
「まだ分からないかね?」
銀髪の女性が、空間の穴へと落ちた。
「汝もまた、世界を滅ぼす意志。その少年を殺そうと企む思念そのものなのだ」
背後に現れた女性は、白い女の子に対して親し気な笑みを向けた。




