《第875話》『終わりへと下る道』
「どうした、厨二病は卒業か?」
「なんだそれは?」
「気にするな、大した事ではない。それより、『この世界の仕組みに過ぎなかった』とは、妙に意味深ではないか」
この名も無き悪魔とやらは、貞淑そうに見えてその実、妾と似た横暴さを持っている。
そんな奴が。今までそう振舞っていたであろうことが伺えるそんな奴が、そう簡単に考え方を転換するとは思えない。
無論、身を護るために言っているとも考えられない。それゆえ、流石の妾と言えど非常に興味がわいた。
「吾は世界を吾の思う形で崩壊させるため、それを構築する空間と空間の境に手を伸ばした。既に存在する概念を侵食し、取り込み、そこから吾らのかき集めた力を放出することで、世界を砕こうと考えていたのだ」
簡単に言ってのけるが、どうしたら世界の狭間にまで自らの存在を丹念に割り込ませることができるのか。この妾であっても、理解が困難だった。
妾や樹那佐 呉葉がやっていることなど、せいぜい己が足をそこへ踏み込ませた程度でしかない。
「だが、その過程である記号を取り込み、なし崩し的に読むことになった」
「記号、だと?」
「ああ、記号だ。その内容とは――……、」
名も無き悪魔が、相変わらず微笑みを浮かべた顔で、自ら見てきたと宣う光景を口にした。
「――随分と、無駄に壮大な虚構を述べたな。三流の脚本でも、ここまで酷くはない」
「別に、吾は汝が信じようと信じまいと構わない。純然たる事実にして運命の前に、その世界という檻の中に囲われた魂は、滅びを受諾する他ない」
奇術師は、ステッキをくるくると回す。
対する妾は、自らの中で妖気を練り上げる。
「ならばその運命、捻じ曲げてくれよう。鬼神・狂鬼姫が是とせぬモノは、絶対的にあり得てならぬ」
「汝はただ単に、運命と言う絶対者が纏っている衣、それを着ているだけにすぎぬ。そして――吾は同じ絶対者たる同胞へと、その真実を伝えてやらねばならない。輩故に」
「この妾を前に、それができると? 空間の裂け目を通って、どこまでも追いすがってやろう。何よりも、妾自身の娯楽のためにな」
本体と呼ばれる者の実力が如何ほどかは知らないが、ハワイ旅行もまだまだ途中だったのだ。世界が滅んだりすれば、その続きもできはしない。
だが、名も無き悪魔はニヤリと不気味に嗤った。
「今更どうもしようのない。本体は同胞の元へと向かったぞ。そして、これからも向かわせるつもりはない」
――妾としたことが、どうしてこうも簡単なことに気が付けなかったのか。
「この肉体は本体の意識と同調しているが、数ある分身体の一つにすぎぬ。さあ、同胞の贋作よ、吾らと夜会と洒落込もうではないか」
空間の裂け目が、無数に現れる。そうして出てきたのは、皆同じ顔の銀髪女共だった。




