《第874話》『己の世界』
「しかし、世界を滅ぼす、か。それも、己がその瞬間を目にしたいから、等と言う理由で」
幻影とは言え、やはり世界を滅ぼされるのは困る。妾は奇術師の出方に注意を払いつつ、そう文句を述べる。
「その様の美しさを想像すれば、誰しも手を出してみたくなると言うもの。吾がこのように思うことは、自然の摂理ではないか?」
「随分とまあ、自分勝手に言ってくれる。妾は自身も大概だと自覚しているが、流石に貴様には及ばんよ」
そう皮肉たっぷりに言ってやると、奇術師はクックックと笑う。通じているのやら、いないのやら。
「当然だろう。世界は吾のモノなのだから」
「ほう?」
「この複数ある世界において、明確に『意識』と呼べるモノが存在すると断言できるのは吾だけだ。他はそれぞれの行動傾向の元に行動し、存在する。意思有るものは己だけと推定できるそれ即ち、世界は吾のために存在していると断言可能なのではないかね?」
奇術師の唄うような口調を聞く限り、冗談でそう述べている様子は無い。どうにも、厨二を拗らせたかのような発言を、すさまじく真面目に口にしてくる。
――妾の古傷(幻想)が痛む。嫌な奴だな、こいつは。
「――と、先日までは思っていたのだがな」
「む――?」
だが、奇術師の不敵な笑みが。自嘲的なモノに変わった。
「どうやら吾も、この世界――正しき意味において、この世界の仕組みに過ぎなかったらしい」




