《第872話》『存在しえぬイレギュラー』
夜の街の中、適当にぶらついていると、妾は襲撃に合った。
容姿はほっそりとして身長の高い銀髪の女。髪はみつあみツインテールで、衣服は西欧の民族衣装に近い。
そんな奇妙な出で立ちの女と。遊び始めて三分程になる。
「テメェがナントカっつぅ本体の言ってたニセモノ――がッ!?」
「どいつもこいつも、ニセモノ、ニセモノと。言ってくれるではないか」
空間転移で空中に逃げたそいつを、跳躍だけで追いすがり、顔面をわしづかみにする。がたがた喧しいので、口も一緒に塞ぎながら。
「確かに、妾はアレそのモノではないがな? そのように言われてばかりでは、流石に傷つくというものだ」
そしてそのまま、下方に投げ飛ばしてやる。さらに続けて拳大の鬼火玉の連射。
「妾は狂気鬼。かつて鬼神として数多くの妖怪共を従えていた主の、かつての姿だ」
ビルとビルの間にある、広い空き地に墜落した民族衣装は、叩きつけられて粉塵を上げているところに更なる妖力の連打を喰らった。
舞い上がった塵が失せると、残骸なのか破片なのかが僅かに残っている。どうやら、吹き飛んでしまったらしい。
「なんだ、あっけないな」
妾は一つのビルの屋上に着地、思わずそう呟く。
どうやら向こうは、「もう一人の呉葉」を認識したらしい。奴らにとって妾が何なのかは知らないが、民族衣装以外にも、スーツ、ミニスカメイドと、二人ずつ単騎で襲撃してきた。
もっとも、どれも妾の相手には不足だったが。軽く本気を出せば、今のヤツのように一瞬で畳んでしまえる。
「――あるいは、固体によって強さが異なるのかもしれんがな。そこのヤツ、出てきたらどうだ」
「流石、愛おしき同胞と同じ姿をしているだけある」
物陰から現れたのは、奇術師のような姿をした、これまた銀髪長身の女だった。ちらりと、そんな姿をしているヤツがいるとは聞いたな。
「貴様らが弱すぎるのだ。確か、魔界、とか言う場所より来たと言っていたな? 同じ魔界の出なら、正気を失った赤い悪魔の方がよっぽど手ごわかった」
「それもそうだろう。汝が倒したのは、吾の分身体。力は幾分か劣るからな」
「ならば、本体とでも言いたげな貴様が、妾を倒しに来たのか?」
闇夜の中、奇術師はステッキをくるくる回す。
妾に知覚できない力を持つ者。果たして、どう出てくるか――……、




