《第864話》『壊される街並み』
悪魔の睨むその先には、空中へと空間転移した狂鬼姫がいる。ディアは殴り飛ばされた後、今の位置で持ち直し宙に浮いているのだ。
そのディアが、お返しとばかりに尻尾を振るった。刃のついたそれが軌跡を描いた瞬間、その先にあるビル群が中ほどで切断される。
狂気鬼は――そのビルまで吹き飛ばされたようだ。
「ほほう、真空の刃か。だが、妾の守りを突破するには足りんなァ――!」
だが、今しがた倒壊してゆくビルの壁に足を着け、白い鬼は嗤っていた。
『ギ、ギグギ、ギ、ギギィ――ッ』
「む――」
狂鬼姫の頭上に、赤い雷が降り注ぐ。それらはビルをいとも容易く貫き、その下に居る彼女を狙っているのだろう。
だが、その姿は相も変わらず瞬く間に消え去ってしまう。
「こっちだ、こっち」
『――っ!』
宙に居るディアと水平な別方向。そこでは、狂鬼姫が黒々とした炎の塊を掲げていた。
「プレゼントには、三倍返しをしなければならんだろう?」
放たれた極大の火球。しかしディアは、迫りくるそれを更に上空へと舞って回避――、
「遠慮するな、受け取れ」
『ギィッ!?』
そんなディアのすぐ頭上へと出現した狂鬼姫が、回し蹴りを一発。赤い悪魔は、鬼火玉へとまっすぐ吹き飛ばされていく。
「加えて、おまけだ。よぉく、味わうといい」
そして追撃と言わんばかりに、同じ巨大さを誇る炎の玉をもう一度投げつける。
――結果、ディアは両側から灼熱の炎に挟まれることとなった。
轟音と共に、空中で大爆発が巻き起こる――……、
「くっ、どっちも無茶苦茶を――ッ」
俺はと言うと、何とも情けなく余波で身体を飛ばされ、建物へと背中を打ち付けてしまった。まるで風に舞いあげられる紙きれのようだ。
街の様子などお構いなし。両者の力と力のぶつかり合いは、この世の終わりを示唆しているかのようだった。
――そこへ、
「っ、貴様ら何をしているッッ!!」
日ごろよく聞く、後輩の嫁の声が響いた。




